事務局長より~日日新(PROGRESS)~
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日日新Vol.R4-6
「A君のこと」
施設を黙って出て帰ってこないことを「ムガイ」と言っていた。無断外出を短くしたものだが、省略するほど頻回だったのだろうか。他の施設でも同じように使っていた。今はどうなのだろう。
友人に「最近ムガイの子どもが多くて大変だ」と嘆いたら、「ムガイなら大変じゃないだろう」と言われた。「無害」じゃなくて「無外」であることを説明したら納得していた。
無外を繰り返す子どもに必要な支援は何だったのだろう。理由を聞いても答えてくれず、話を聞いてもらえず、自分が無外をしたくなったこともあった。いっそのこと、一緒に無外をしたら何かが違っていたのかと、半分本気で思ったりしている。
30年ほど前、長期無外の子どもの捜索に同じ寮の子どもたち数人を連れて行ったことがある。子ども達はドライブ気分で道々どこにいったかを話し合っていた。「やっぱ最後は家だべ」、「俺はダチんとこだと思う」等々、無外の子どもの気持ちを推し量るというより、自分はどうするかを語っているようだった。にぎやかに思い思いのことを話していると、缶コーヒーを握りしめ助手席のA君がポツリと言った。「俺は行くとこがないかも」と。
A君が暴行されて死んだことを新聞で知ったのは、退所からしばらくたってからのことだ。彼がその後どのような人生を送ったのかはわからない。ただ、私の脳裏に彼の言った言葉が鮮明に蘇ってきた。そして、やりきれない気持ちで空に向かい問いかけてみた。長い人生を残して「君の行けるところはそこしかなかったのか」と。
児童福祉法の一部が改正され、社会的養護経験者等に対する自立支援の強化や、社会的養護自立支援拠点事業の創設が盛り込まれることとなった。白河学園では自立支援担当職員が孤軍奮闘しているが、更なる制度の拡充が強く、強く望まれる。
ここで暮らした仕合わせが、幸せに成熟することを願って繋がり続けていけたらと思っている。
木枯らしにもてあそばれて転げゆくジョージア微糖地下道に消ゆ
法人事務局長 斑目 宏