事務局長より~日日新(PROGRESS)~
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日日新Vol.R4-10
人工関節
親戚の葬儀に参列した。火葬が終わるまで待たなければならない。どこでどう過ごそうか。外は風もなく柳はだらりと枝を落としていた。若い母親が赤子をおんぶして何か唄を歌っている。赤子は眠り、曇りの空に白い煙がたよりなく昇っていた。
放送があり収骨室へと向かう。炉より出てきた収骨台にはまだ熱がこもり、肉体が存在した余韻が漂っていた。そして、そのまま形に並んだ膝のあたりに黒い人工関節が残されていた。その場には異質なそれは、どのように扱われるのだろう。制服制帽の係の人が喪主に尋ねた。「骨壺に入れますか?」一瞬沈黙があって、黒い関節は一緒に葬られることとなった。
膝が悪く歩けなくなって、手術を受けたのはどのくらい前だろう。人工関節を入れて一人でできることが増え、生活の質も向上した。本人ではないけど本人の一部として一緒に歩み、支えてきたのは確かなのだろう。
児童養護施設には障害のある子どもが一定数入所している。里親へシフトしていく中で、その割合は確実に増えている。そして、児童養護施設では、障害のある子どももそうでない子どもも一緒に生活している。ふと思う、誰のために何を支援するのかを。
私たちは障害のある子どもに、いわゆる健常児になるための支援をしているのだろうか。
私たちは健常な子どもと変わらないところを見ずして、ひとくくりに障害児としていないだろうか。
私たちは障害のある子どもが何を望んで、何を望んでいないか知っているのだろうか。
一人ひとりの思いや障害に寄り添った支援を考え、実践していく。私たちは彼らでも主役でもなく、依存され、自己現実の支え手となる。互いに価値を与え合う共感的・肯定的な関係。或いは、教えられ、支えられる関係。一緒にいて楽しい関係。
いつか、私たちも彼らの思い出の壺に入れて貰えたら幸せなことだ。
ほむら立つ庭のコキアのひと群にけむりのごとく雨ぞふりける
山かげに日のかくろへるたまゆらに秋の蜻蛉はおりてくるらし
法人事務局長 斑目 宏