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事務局長より~日日新(PROGRESS)~

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日日新Vol.R5-5
さくら
 今年は4月を待たずに桜が開花し、小中学校の入学式が満開のもと行われた。今まで自分の子どもや施設の子どもの入学式に幾度となく出席してきたが、たいがい肌寒く桜も咲いていないことが多かった。白河学園のお花見も4月中旬に設定されていて、大きくはずれることはなかったと記憶している。春の日差しを浴びて2時間余り、子ども達と南湖公園を往復したことも懐かしい。春がどんどん前倒しになって、かといって冬が早く来るわけではないので、日本から四季が無くなってしまうのではと心配になる。お花見の行事も年度初めではなく、年度最後の行事になる日もそう遠くないかもしれない。

 令和5年度に白河学園は本体に2つ、地域に4つのホームを置くことになった。定員は40人に減りひとつの生活単位は6~8人となる。これで地域分散化・小規模化は概ね完成形を迎えることとなる。形は整うのでこれからは更なる支援の充実だ。小規模化の本質である個別化は単に1対1で関わるということではなく、一人ひとりの子どものニーズに沿った支援を行うということである。凡そのことが生活単位ごとに完結する。施設の方針を汲んで子ども一人ひとりの文化を築いていくことが、その目的に適うことになるのだろう。

 ちなみに、私が入職した30年前ほど前は3つの寮に60人の子どもが生活していた。そのうちの2つが男子寮で、一時その40人近い子どもを一人の夜勤者が見ていたことがあった。新人だった私の朝も2つの寮の子どもを起こすことから始まるのだが、これがなかなか・・・。若葉寮で声掛けをして青葉寮へと向い、戻ってくると目覚めたはずの子どもの殆どが深く寝息を立てている。再び起こして青葉寮に行くとこちらもまたしんと静まり返っている。こんなことを繰り返すうちに心はポキリと折れて、2つの寮の間に成すすべもなく立ち尽くすのだった。見かねた年長児が「起きねぇとぶっ飛ばすぞ」と気合の一声、ピンポン玉がはじけるように子ども達が部屋から飛び出してくる。この嘘のような光景に再び心が折れた。当時は子ども達の間に悪しき上下関係が成立していた。不適切な環境の中で傷ついてきた子どもは、力関係の中に身を置き自分がされたことをするようになる。そして、大人との関係を回避しようとするのだ。そんな渦の中で私は何もできずにもがいていた。

 芽吹き始めた里山に薄紅色が浮かび、施設の周りにもこぼれんばかりに染井吉野が溢れている。「ここにいます」と花が咲いて、私たちは桜の木を意識する。だけど、桜は一年中そこにあり再び花を咲かせるための準備している。子どもも私たちとともにいて日々成長を続けている。子どもに何事かあった時だけではなく、花のない桜のような日常の中でこそ、その存在を大切に日々の変化に気づいていきたいものである。

   「めだまっち」ふいに呼ばれてふり向けば袋だらけの金曜の君

法人事務局長 斑目宏
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