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事務局長より~日日新(PROGRESS)~

羽ぐくむ

 
 「旅人の宿りせむ野に霜降らばわが子羽ぐくめ天(あま)の鶴群(たづむら)」
 これは万葉集に収められた遣唐使随員の母の歌である。歌の意は、「遠い土地に旅をしているわが子が寒さに震えているなら、空の鶴たちよその羽で包んでやっておくれ」というものである。この「羽ぐくむ」が転じて「育む」すなわち養育することとなったと言われている。そもそもは、親鳥が両方の羽に覆い包んで愛し育てるということで、とても暖かく素敵な言葉だと思う。

 元旦の能登半島地震で大きな被害の出た石川県では、3つの市や町の中学生が集団避難を行った。整った環境で学習機会を確保するためであるが、我が子を送り出す親の気持ちはいかばかりであろう。万葉に生きた母の思いに通ずるものがある。

 施設の渡り廊下に毎年雀が巣を作っている。ひとしきりひなの鳴き声が聞こえ、親鳥がえさを運び、気が付くと声も姿も途絶え巣藁だけとなっている。
 こどもたちにもいつか巣立ちの時がやってくる。どの時点を巣立ちの時とするのか、児童養護施設に居ていつも悩むことである。
 鳥の巣立ちに関するある実験では、十分に成長する前に巣立つと生存率は著しく下がるというデータが出ている。鳥は飛べるのが当たり前で、巣立ちを迎えたらすぐに飛び立つわけではない。最初はジャンプをしながら羽をはばたかせることから始まり、徐々に飛べるようになっていく。そして、自然の中で餌取や外敵から身を守ることを学んでいくのだ。ちなみに、雀は巣立った後もしばらくは親の近くで生活をするという。こども基本法において「こども」とは、「心身の発達の過程にあるもの」とされており、これは年齢で必要な支援が途切れないようにすることの大切さを示すものであろう。
 養育し巣立ちさせること、親が子を慮する気持ちはいつの時代も鳥の世界もそして、我々社会養護に係る者も同じなのだろう。

 2023年4月に「子ども家庭庁」が発足し、こどもへの支援が概ね一元化されることとなった。こどもへの福祉はこどもだけの課題解決に止まらず、日本社会の持続可能に大きくかかわる。我が法人も待ちの支援から予防的支援、プッシュ型支援、アウトリーチ型支援に転換していかなければならないと考えている。法人は白鳥隊列よろしく、組織としてその羽を広げ、どこかと繋がり、ぶれずに地域共生社会の育みに貢献できたらと思っている。

   すずめ去り 巣藁はほそく垂れにけり 養護施設の軒にふる雨

  
法人事務局長 斑目 宏

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